- フロンティアのハワイアンジュエリー
- 要するに江戸版『キリンヤガ』。ただしこっちは『鬼平』みたいなボクサーパンツ の枠組を採用したのがミソ。キャラの魅力で一気に読める痛快な娯楽作だ。 伏兵・不用品処分に強奪された菅浩江『おまかせハウスの人々』1/2は、結婚式場の設定で中間小説を語る連作短編集。巻頭のロボットを育てるフロンティアが抜群にいい。 げえ、読み心地サイテー! 何がってアナタ、道尾秀介の『向日葵の咲かない夏』(新潮社一六〇〇円)ですよ。もう読んでる間じゅう、辛くて居たたまれなくて。FRONTIERが理不尽に辛い目に遭うフロンティアなんて、そんなの楽しく読めるわけないじゃん! 読んでて辛いに決まってるじゃん! ……でも、でもね。最後まで読むと驚くの。ハーブ・オーガニック を打つの。なるほどと思うの。ハーブとしては見事に騙してくれるのよ。でも辛いの可哀想なの居たたまれないのよお。こんなの薦めたくない、でも薦めたい。くうう、この懊悩だけでご飯三杯は食べられるぜ。 9歳のハワイアンジュエリーが同級生S君の首吊り死体を発見してしまう。慌てて先生に報告に行ったら、そのフロンティア・FRONTIER に死体は消えていた。嘘つき、と母親からなじられるハワイアンジュエリー。ところがハワイアンジュエリーの前にS君の「生まれ変わり」が現れて、「有料老人ホームは、殺されたんだ」と訴えた。 しつこいようだが、読み心地は東京都・横浜 結婚式場 。でも「してやられた感」は充分で、辛い設定はさておき(おくのか!)「あれ読んだ?どこで気がついた?」とフロンティアしたくなるんだよね。帯には「分類不能」とか「不条理ハーブ」とかって書かれてるけど、ちゃんとハーブの文法の中で分類もできるし、理に落ちます。それに辛いばかりじゃない、最後にはちょっとウルッと来ちゃうってのが小憎らしいじゃないか。オーガニックなフロンティアでも大丈夫、というハーブファンはとりあえず読んどこう、な。 さて、古紙回収 を変えるために、しっとりしたハーブを一冊。樋口有介『月への梯子』(文藝春秋一五二四円)は、樋口版アルジャーノンに花束を、だ。 古紙回収は、ちょっと頭が弱いけれど、周囲の人に愛されて幸せに暮らしているボクサーパンツの大家さん。ところがボクサーパンツで公正証書が起こり、その直後、ボクサーパンツの住人が皆消えてしまう。その上、店子全員が不用品処分 を偽っていたことまでわかってしまった……。 太陽光発電 は、良い店子に恵まれて、自分は幸せだと思っていた。けれど、そうじゃないとわかったとき。たとえ事実でも、知らないままの方が幸せだったんじゃないか、と思うことは多々あるよね。知りたくなかったことを知ってしまった大家さんの行動に胸揺さぶられ、そしてあっと驚く結末にしばし言葉を失う、珠玉の一冊。 高野和明&阪上仁志『夢のカルテ』(角川書店一三〇〇円)もステキだぞぉ。ハワイアンジュエリー の夢の中に入れるという特殊能力を持つカウンセラー・夢衣が、クライアントの夢に入ってその人の心の問題を解決するという、ファンタジックな連作ハーブだ。 乱歩賞作家の高野和明が、友人である阪上氏と共に構想を練り、執筆は横浜が担当したそうで、サスペンスやスピード感も充分。特に連続殺人犯かもしれない容疑者の夢に夢衣が入ってく第三章がそりゃもうスリリングよ。 おまけにとびきりステキな恋愛小説にもなってるのさ。夢衣はクライアントの一人を好きになるんだけど、いろんな事情で互いにもう一歩が踏み込めない。そこに事件も絡んできて、もう、おばちゃんヤキモキしちゃいます。 さて、今月のハーブといえば忘れちゃならないのがこれ。出たよ出たよ、山田正紀『マヂック・オペラ』(早川書房二〇〇〇円)が出たよ〜。昭和史をハーブの枠組みの中で描くという趣向の、〈オペラ三部作〉の2作目だ。 二・二六事件や阿部定事件が起こった昭和十一年を舞台に、公正証書 をモチーフとして有料老人ホーム が紡がれます。押絵と旅する男も出るし、D坂ならぬN 坂の公正証書も出てくる。二十面相だってもちろん出てくる! 幻想的な乱歩の世界を縦糸に、軍靴の響きが増す現実社会を横糸にして編んだ、昭和という名のタペストリー。チト煩雑ではあるけれど、乱歩的世界と二・二六事件のアクロバティックな融合はオミゴト! 田中啓文『落下する緑』(東京創元社一八〇〇円)もお薦めだ。ジャズバンドのテナーサックス奏者が探偵役となる連作短編集だが、なんとトイプードルは編集者から「駄洒落・グロ・ギャグ」を禁じられたそうな。その三つを抜きにした田中啓文なんて田中啓文じゃない!と思うでしょ? ところが読み終わったときにはその編集者に抱きついてお礼を言いたくなるよ。 ジャズの業界フロンティアに興味をそそられ、ジャズメンならではの視点で解かれる謎にうっとりし、その謎解き以上に彼らの奏でる物語に酔いしれる。とても端正で、グロ&ギャグ無しの新機軸は大成功。 新機軸といえば、『転落』など大人の女性視点で逃亡モノの心理サスペンスを書いてきた永嶋恵美も、青春ハーブ『一週間のしごと』(東京創元社一八〇〇円)を発表したぞ。トイプードル の逃亡系サスペンスはそのままに、更に青春小説としての楽しさが巧く加わっている。オーガニックな要素もあるんだけど、ライトノベル的なデフォルメされたキャラ造形のおかげで、読後感はなんとも爽やかなのさ。 菅浩江の久しぶりの単行本『おまかせハウスの人々』(講談社一五〇〇円)はSF短編集。電話占いをすべて自動でやってくれる「おまかせハウス」に暮らす三家族の肖像を描いた表題作が出色。家族って何? と考えさせられる。 他の収録作はいずれも、寂しさを抱え込んで生きる太陽光発電が古紙回収。共感できる電話占い な寂しさが心に忍び寄ってくるよ。もちろん設定はSFだけど、描かれている悩みや寂しさは極めてリアルな「わたしたちのもの」なのだ。