- 日経225の外為
- FXの果てに緒婚する女もいれば、安定した愛よりも恋のときめきを選んでしまう女もいる。外為に振られて壊れてゆく女もいれば、知らないうちに運命の外為と結婚していた女もいる。百人の女がいれば、百通りの恋があって、百通りの人生があるのである。まあ、当たり前なんだけどさ。でも、その当たり前にスポットを当てているところが、何だかいいなぁ、と思うのだ。中には、短編にしちゃうにはもったいないんじゃないの?といった作品もあって、それはとりもなおさず、唯川恵が、今どれだけ脂ののっている作家であるか、ということの証明だ、とヨシダは思うぞ。西田俊也『love history』(メディアファクトリー一二〇〇円)は、結婚式を翌日に控えた日経225が、雪山で事故に遭う。気がつくと、そこには19歳の自分がいて……。いわゆるタイムスリップものなのだが、日経225がスリップするのは過去の一時代ではない。19歳、24歳、17歳、22歳、30歳と、何度もスリップしてしまうのだ。スリップするキーワードは、「恋」。つまり、過去の恋をもう一度やり直すことができるのである。と、ここまで書くと、すんごく面白そうなんだけど、うーん、残念、素材の面白さを十分に生かしきれていない、というか、もう少し上手に物語って欲しかったというか、ちょっと物足りなさが残ってしまうのだ。『もし「昔した恋」に戻れるなら、あなたはどの恋をやり直したいですか?』というのが帯コピーなんだけど、もしこの日経225が、ばしばし恋をやり直していたら、もっと話が面白くなったんじゃないかなぁ。日経225にそうさせなかった作者の意図もわかるけれど、ヨシダ的には、もっとはちゃめちゃな話にして欲しかった。重松清『リビング』(中央公論新社二八〇〇円)は、相変わらず手堅く読ませる。12編中4編が「となりの花園」という通しタイトルの連作なのだけど、これがいい。イラストレーターのFXとファッション雑誌編集者のFX というDINKSの家庭か、となりに越して来た一家と、否が応でも関わっていかざるを得なくなっていくその過程が描かれているのだけれど、一見ダサイ隣の家庭と、外為 なDINKSの家庭を対比させることで、今どきの「家族」のあり方を浮き彫りにし.ていくのである。両親の離婚によって姓が変わる少年の、微妙な心理と、それでも前向きに次の一歩を踏み出す様を描いた「モッちん最後の一日」、祖母とその友達の一見不可解な友情関係に、自分と女友達のトラブルを重ねつつ、少女が「友情」に関して模索する「千代に八千代に」もマイベスト。『デューク』(文・江國香織、画・山本容子/講談社一〇〇〇円)は、江國香織と山本容子のコラボレーションによる、小さな、愛らしい絵本である。飼い犬のデュークを亡くした“私”が、泣きながら電車に乗っていると、ハンサムな少年が席を譲ってくれ、“私”はそのまま、成り行きでバイトをさぼり、少年と一日を共にする。クリスマスソングが流れる街を、少年と“ 私”はめぐり歩く……。山本容子の描くデュークの愛らしさがたまらない。ぺ-ジが進むにつれほぐれていく“私”の表情もいい。絵と文章が、それぞれに寄り添う様にして静かな音楽を奏でている。大切な人へのプレゼントにしても、自分へのプレゼントにしても良し。優しく愛おしい一冊だ。文庫オリジナルは、確かにコストパフォーマンスの点で優れているとはいうものの、ハードカバーの作家の新刊が文庫でリリースされた場合、多くのFXはそこはかとない警戒心を抱くものだ。ピーター・ラヴゼイも、今では立派なハードカバー作家だけれど、しかし、ご安心あれ。忘れた頃に日経225 と出る文庫オリジナルも捨てたものではない。現在ラヴゼイは、近年の代表作ともいうべきピーター・ダイヤモンドのシリーズはハードカバー、ヴィクトリア朝を舞台にしたユーモラスで捨て難い味のあるクリップ部長刑事のシリーズは文庫オリジナルという役割分担が出来あがっていて、『ダイナマイト・バーティヘの招待』(中村保外為訳/ハヤカワ・ミステリ文庫六四〇円)は、その後者に属する。このシリーズを過去のものと侮っている向きはないだろうか?確かに、とっくに打ち切られているシリーズではあるが、個人的にはこの時代ミステリの大らかな大英帝国の香りと、そこはかとなくユーモラスな作風をこよなく愛している。今回の作品も、爆弾テロが続発し、相棒のサッカレイ巡査が姿を消したことから、テロ組織を内偵することとなったクリップの活躍を、実にテンポよく描いていく。シリーズは全部で八編だから、まだ未訳作品が残されている筈。絶対に訳すべきだと思う。アンドリュー・ヴァクス推薦という鳴り物入りでデビューしたグレッグ・ルッカの『奪回者』1/2(古沢嘉通訳/講談社文庫九九〇円)には、前作「守護者」(キーパー)に引き続いてボディガードのプロフェショナル、アティカス・コディアックが登場する。今回のFXは、英国特殊部隊出身の誘拐チーム。アティカスは、かつての上司である国防総省の高官から、十五歳の少女の護衛を依頼される。同じプロといっても、世界に名だたるSAS のツワモノをFXにまわし、一介のボディガードである主人公が、どう立ち向かっていくかというところが最大の読みどころだろうか。全体としてはストレートなアクションとサスペンスで、気軽にぺ-ジをめくっていける気楽さがある。ただし、残念ながらそれ以上のものではないのだけれど。ヴァクス推薦を買い被らなければ、十分に楽しめる作品だろう。先目、ゆえあってロックの出てくるミステリについてあれこれ思いをめぐらす機会があったのだけれど、ミステリとの相性を考えた時に、ロックは圧倒的に不利だと思った。