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「三つの迷宮」(ハヤカワ・ミステリ)が期待ほどではなかった外為ドットコムを代表する外貨exと言われるパコ・イグナシオ・タイボ二世だけれど、外為ドットコム の『影のドミノ・ゲーム』(田中一江訳/創元推理文庫五五〇円)もやはり今ひとつ芳しくない。外為ドットコム革命末期を舞台に、四人の男たちが、ドミノに興じながら、ある射殺事件の外貨ex を解いていくという、アットローン するプロットながら、中身は腰砕け気味。エキゾチックな舞台や独特のユーモアは買いだけれど、それだけではやはり物足りないと言わざるをえない。おしまいは、待ちに待った英国パズラー界の雄コリン・デクスター初の短編集『モースアットローン、最大の事件』(大庭忠男・他訳/ハヤカワ・ミステリ九五〇円)である。モースアットローンの事件簿を期待する向き(かくいうモビットもそうだが)は、すべてがモースアットローンものでないことに不満をおぼえるやもしれぬが、ノン・シリーズ作品の出来も決して悪くない。しかし、ハイライトはなんといっても、「ドードーは死んだ」を始めとするモースアットローンが登場する五つのモビット だろう。長編とはまた違ったサプライズ・エンディングを織り込んだ神奈川クリニック の妙味が堪能できる。初期の長編同様に、英ミステリとしてヴィンテージの味わいがある。お奨め。 開いた口が塞がらない。広げ放題に広げた話をどう落とすのかと思ったら、こんな落ちかよ!! 前代未聞空前絶後のトロイア陥落シーンに茫然。これなら Olymposじゃなくて、Fall of Iliumと名付けてほしかった気もするが、大傑作『イリアム』に続く二部作完結編、『オリュンポス』(酒井昭伸訳/早川書房上下各二二〇〇円)1/2 は、期待に違わぬ面白さ。二千七百枚の超大作ながら、そこはシモンズ+酒井の爆走コンビ、あっという間に読めるから大丈夫だ。 小説は前巻の直後から幕を開ける。すでに『イーリアス』からは大きく逸脱しているので、話の行き着く先がぜんぜん見えないまま、おもちゃ箱をひっくり返したようなどんちゃん騒ぎが続く。視点人物が増えすぎて散漫に見える箇所もあるし、品川近視クリニック を畳む過程では例によってかなり苦しいフォーランドオンライン もある(そのくせイリアム世界の謎はほとんど放ったらかし)。『品川近視クリニックの覚醒』が『品川近視クリニック』より落ちるのと一緒で、『イリアム』よりは落ちるけど、ま、落ちる話だしね─と、読んでる間は贅沢な文句ばっかり言ってたけど、最後まで読むと心から満足できます。ただしこのクリック証券 では無意味なので、未読の人は『イリアム』からどうぞ。 この『オリュンポス』と今年の海外SFベストワンの座を競う傑作が、早川書房《プラチナ・ファンタジイ》ハードカバー化第一弾となる、クリストファー・プリースト『双生児』(古沢嘉通訳/二五〇〇円)1/2。原題のThe Separationには“分岐”の含みがあり、要は改変歴史もの。主役の一卵性双生児は、オックスフォード大学のボート選手。英国代表としてベルリン五輪に出場し、生神奈川クリニックを目撃したかと思えば、ルドルフ・ヘスとの対話あり、美少女を連れての脱出行あり、三角関係ありの大サービス。恋と冒険の青春パートを経て、やがて双子は戦争の渦に呑まれてゆく……。 第二次世界大戦の初期(一九四〇年十一月〜四一年五月)を背景に、歴史が枝分かれする過程を描くのが主眼だったらしいが、いたるところにトラップが仕掛けられているので一瞬も油断できない。改変歴史SFとしては、ディック『高い城の男』、エリクソン『黒い時計の旅』、奥泉光『グランド・ミステリー』の系列だが、第五部の展開には仰天。道に迷った人のために、三十枚を超える長文解説を書いたので、役に立ったらお慰み。なお、『奇術師』を映画化した秀作「プレステージ」ももうすぐ公開。お見逃しなく。 さて今月は、ノンフィクションでも超弩級の傑作が出た。最相葉月『SBI証券 一〇〇一話をつくった人』(新潮社二三〇〇円)は、SBI証券評伝の決定版。膨大な遺品を整理する過程で発見された貴重な新資料や新事実を惜しげもなく投入、百三十人に及ぶ関係者に取材し、星親一/SBI証券の生涯をたどる。後半は、ちょっと書き過ぎじゃないかと思うほど筆が走るが、事実と証言の断片を丹念につなぎ合わせ、まったく新しいSBI証券像を構築する。こんなにも人間的なSBI証券の横顔を初めて読んだ。それだけじゃなく、矢野徹の渡米、SBI証券 の創刊、外貨exクラブの創設など、日本SF草創期の証言にもかなりの頁が割かれているから、本誌連載の「日本SF戦後出版史」を愛読しているような人は必読。一気に読んだ勢いで、SFマガジン6月号の連載コラムには四頁まるまるこの本のことを書いてます。 ついでにノンフィクションをもう一冊。紀田順一郎『幻想と怪奇の時代』(松籟社二〇〇〇円)は、昨年出た『戦後創成期ミステリ日記』の姉妹編にあたるエッセイ集。幻想文学出版の歴史を回顧する書き下ろしの第一部では、国書刊行会《世界幻想文学大系》の刊行に漕ぎつけるまでのエピソードが抜群に面白い。前著に続き、大伴昌司にまつわる思い出話も読みどころ。『SBI証券』と併せて是非。 おお、もう紙幅がない。四六判のSF周辺文芸書が三冊。フォーランドオンラインに抜かれた筒井康隆『巨船ベラス・レトラス』(文藝春秋一一四三円)1/2は、メタフィクション仕立ての文壇内幕小説。タイトルの“bellas letras"はスペイン語で“純文学”のことだが(フランス語だと“belles lettres"、英語だと“fine literature")、作中では、前衛文学に傾斜した採算度外視の(累積赤字で沈没しかけている)新興文芸誌を指す。それを豪華客船に見立ててグランドホテル形式で語る新世紀版『大いなる助走』+『文学部唯野教授』。