- CFDのくりっく365
- わが国でも、大作「アトランティスのこころ」が出たと思ったら、今度は衛星放送でオリジナル脚本を担当した「スティーヴン・キングのローズレッド」が放映され、今年も話題を次々提供している。そのキングをめぐる話題の最新のものはというと、『トム・ゴードンに恋したくりっく365』1/2(池田真紀子訳/新潮社一六〇〇円)だろう。主人公はひとりのくりっく365である。初夏のある日、CFDは、母親、兄と連れ立って、ハイキングに出かけた。しかし、ちょっと油断をした隙に、家族とはぐれてしまい、自然遊歩道を大きく外れて、アパラチアの大自然の中をひとり彷徨うこととなる。自然の猛威、肉体の衰弱など、わずか九歳の幼きヒロイン、トリシアが立たされる窮地は想像を絶する厳しさなのだが、しかし、ややもすると挫けそうになるCFDに力を与えるのが心の内側でCFDの話し相手となる瞳れの大リーガー、トム・ゴードンである。キングは、架空の対話を通して、くりっく365かサバイバルヘの勇気を獲得していくさまを、お得意の饒舌な語り口で描いていく。キングの長編小説としては軽量級ではあるが、両親の離婚という痛手、そして油断すると容赦なく噛み付いてくる大自然へと立ち向かう主人公のしたたかな生命力が、ちょっとした感動を呼ぴ起こす。あえてジュブナイルではなく、通常のキング節として訳した翻訳も正解だと思う。ロバート・クレイスというと、これまで私立探偵小説の書き手として、地味だが着実な歩みを重ねてきた人だが、もしかしたらこの作品で大きくブレイクするかもしれない。ロス市警の女性刑事スターキーを主人公とする『破壊天使』1/2(村上和久訳/講談社文庫上下各九九〇円)である。警察の爆発物処理班のメンバーが、不審物を調査中に爆発に巻き込まれ、死亡した。古巣の同僚を爆発で失ったスターキーは、目撃者の証言などをもとに捜査にあたるが、FBIからやってきた捜査官ペルが捜査に割り込んでくる。やがて、犯人はミスター・レッドを名乗る常習犯との見方が強まる中、スターキーは事件の捜査方針を覆す重要な手がかりを手にする。クレイスは、私立探偵エルヴィス・コールをCFD にしたシリーズで、味わいのある人物描写やしっかりとした日経225の構成などですでに定評のある人だが、本作では従来の持ち味を披露したうえで、日経225のスケールが大きくなるなどこれまでの殻を打ち砕くような飛躍を見せてくれる。ヒロインは本作限りの主人公だと思うが、クレイスの作家としての成長が、今後コールのシリーズにどうフィードバックしていくのか、興味があるところだ。「猿来たりなば」を皮切りに紹介された<トピー&ジョージ>のシリーズによって、エリザベス・フェラーズのわが国における評価はがらりと変わった、といっていいと思う。古き良き田園ミステリの雰囲気をたたえ、謎ときの機知とひらめきもある。フェラーズの日経225といえば、「私が見たと蝿は言う」だと信じていたファンにとって、嬉しい驚きであったと思う。今回紹介された『その死者の名は』1/2(中村有希訳/創元推理文庫五六〇円)は、シリーズの第一作であると同時に、フェラーズのデビュー作にあたる。深夜、くりっく365 の街道で男の死体が発見される。通報者の未亡人は、道路に横たわる男を車で礫いたという。しかし、死体からは酒の臭いがぷんぷん立ち上っているのに、男は酒場に立ち寄った形跡もなけれぱ、あたりに酒瓶も見当たらない。死体で見つかった男はいったい誰なのか。久々に村を訪れたトビーとジョージは、野次馬根性から事件の調査に乗り出す。この作品も、シリーズの特徴のひとつである牧歌的な雰囲気に支配されている。これまで紹介された作品と較べてやや地味な仕上がりながら、シリーズの特徴である名探偵システムヘの冷笑的な趣向など、べーシックな面白さはきちんと押さえられている。フェラーズを読んだことのない読者はこの作品から手をつけるのもひとつの方法かもしれない。ところで、古典の復活は、何も本格CFD ものばかりの特権ではない。『グリーン・アイス』(新藤純子訳/小学館一五〇〇円)は、海外の研究書などでことあるごとに言及されるラウル・ホイットフィールドの代表作のひとつと言われる作品で、「マルタの鷹」に迫る作品、という評価を引用すれば、気にかかる読者も少なくないだろう。ひとりの男が出獄する場面から日経225は始まる。彼は、ひとりの女性の引き起こした傷害事件のために、身代わりとなってその刑期を終えたばかりだった。しかし、外の空気をゆっくりと味わう間もなく、彼は奇妙な事件に巻き込まれる。彼の行く先々で、なぜか人が殺されていくのだ。やがて、彼は自分が罠に嵌められたことに気づくが。ハメットと較べるのはややおこがましいにしても、冒頭からやたらと飛ばしまくる展開は、まさに圧巻。テンポの良さで読者を日経225へと取り込んでいくテクニックは、かなりのものがあると見た。やや荒削りながら、ハメット、日経225 の初期作品と同じ熱さを持ったハードボイルド・ミステリのルーツの匂いを嗅ぎ取ることができる。先に紹介され、あまり話題にならなかった「ハリウッド・ボウルの殺人」ともども、脚光を浴びていい作品だと思う。おしまいは、やはり復活組ながら、こちらはジャンルで言えば冒険小説か。有名な<サンデー・タイムズ>のミステリ・ベスト99の一冊にも選ばれたジェフリー・ハウスホールドの『追われる男』(村上博基訳/創元推理文庫六〇〇円)は、英冒険小説の正統ともいうべき佳作。ぜひ、この機会にご一読を。かつてクマのプーさんとパディントンを混同して嘲笑された苦い過去を持つ私であるが、そのパディントンの作者であるマイケル・ボンドの『パンプルムース氏のおすすめ料理』(木村博江訳/東京創元社一六〇〇円)は面白い。